【医学部病理学第一講座 金関講師ら研究グループの研究成果】ネオ抗原を認識しがんに浸潤する細胞傷害性CD4+T細胞集団を発見 ~がんに対するCD4+T細胞免疫応答の理解が前進~
ネオ抗原を認識しがんに浸潤する細胞傷害性CD4+T細胞集団を発見
~がんに対するCD4+T細胞免疫応答の理解が前進~
<研究の概要>
がん組織にはCD8+T細胞とCD4+T細胞が集まってきます。CD8+T細胞はがん細胞を認識し攻撃しますが、CD4+T細胞の役割は一定ではなく、まだ完全に理解されていません。新浪体育医学部の金関貴幸講師?房川美渚新浪体育生らの研究グループ(病理学第一講座?鳥越俊彦教授)は、同医学部の真里谷奨助教(産婦人科学講座?齋藤豪教授)および杉田真太朗准教授(病理診断学講座)との共同研究で、子宮体がん組織からT細胞標的となるネオ抗原配列を同定し、これを認識して標的細胞を直接攻撃する細胞傷害性CD4+T細胞集団を発見しました。細胞傷害性CD4+T細胞は、ネオ抗原を認識するとインターフェロンγやグランザイムB、パーフォリンを分泌します。この細胞は、特定の遺伝子群(CXCL13、GZMB、CCL5)を高発現しており、腫瘍免疫監視において独自の役割を担っている可能性があります(図1)。研究成果は、American Association for Cancer Research (AACR) が出版する学術誌Cancer Immunology Researchに掲載(2025年2月3日公開)され、注目研究として掲載号の表紙に選ばれました。
がん組織にはCD8+T細胞とCD4+T細胞が集まってきます。CD8+T細胞はがん細胞を認識し攻撃しますが、CD4+T細胞の役割は一定ではなく、まだ完全に理解されていません。新浪体育医学部の金関貴幸講師?房川美渚新浪体育生らの研究グループ(病理学第一講座?鳥越俊彦教授)は、同医学部の真里谷奨助教(産婦人科学講座?齋藤豪教授)および杉田真太朗准教授(病理診断学講座)との共同研究で、子宮体がん組織からT細胞標的となるネオ抗原配列を同定し、これを認識して標的細胞を直接攻撃する細胞傷害性CD4+T細胞集団を発見しました。細胞傷害性CD4+T細胞は、ネオ抗原を認識するとインターフェロンγやグランザイムB、パーフォリンを分泌します。この細胞は、特定の遺伝子群(CXCL13、GZMB、CCL5)を高発現しており、腫瘍免疫監視において独自の役割を担っている可能性があります(図1)。研究成果は、American Association for Cancer Research (AACR) が出版する学術誌Cancer Immunology Researchに掲載(2025年2月3日公開)され、注目研究として掲載号の表紙に選ばれました。
![Cancer Immunology Researchに掲載(2025年2月3日公開)の表紙](/jp/news/press/h1i5090000000mz5-img/h1i5090000000n40.jpg)
<研究のポイント>
- 子宮体がん組織を免疫ペプチドミクス解析し、HLAクラスIIに提示されたペプチド配列を網羅的に解読。
- がんの体細胞変異に由来する(つまりがん細胞を特定する目印となる)ネオ抗原配列(DTK17)を同定。
- がん組織内からDTK17に反応するCD4+T細胞集団を特定。
- DTK17反応性CD4+ T細胞が細胞傷害性機能を有する(標的細胞を直接溶解できる)ことを発見。
- 細胞傷害性CD4+T細胞集団が高発現する特定の遺伝子群(CXCL13、GZMB、CCL5)を発見。
![(図1)がんに浸潤する細胞傷害性CD4+T細胞はネオ抗原を認識し攻撃する](/jp/news/press/h1i5090000000mz5-img/h1i5090000000n2d.jpg)
<研究背景>
CD4+T細胞はCD8+T細胞と同様にがん組織内に浸潤しています。とくに体細胞遺伝子変異量の高い子宮体がん組織では顕著に観察されます。しかし、CD8+T細胞とは異なり、CD4+T細胞は複数の細胞サブセットに分化可能であり、がん細胞増殖に対して抑制性あるいは促進性にも働きます。どのような細胞サブセットがどのような標的(抗原)を認識し、どのような役割を担っているのか、はっきりとわかっていません。
<研究方法と結果>
体細胞変異量の多い子宮体がん組織を免疫ペプチドミクス解析し、HLAクラスIIに提示されたペプチド配列を網羅的に解読しました。体細胞変異由来のアミノ酸変異を有する抗原配列(ネオ抗原と呼ばれます)を同定し、このネオ抗原をDTK17と名付けました(図2)。続いて、がん組織内からDTK17に反応するCD4+T細胞を特定し、T細胞が産生するサイトカインと細胞傷害能を測定?評価しました。その結果、これらのCD4+T細胞は標的細胞を直接溶解する細胞傷害性を有することを見出しました。さらに、がん組織に浸潤するT細胞をシングルセル解析(scRNA-seqとscTCR-seq)し、1細胞レベルで遺伝子発現パターンおよびT細胞レセプター(TCR)クロノタイプを解析しました。その結果、がん組織中にはネオ抗原に反応し細胞傷害性を有するCD4+T細胞集団が一定の割合で存在すること、およびその集団は、疲弊マーカーであるPDCD1(PD-1をコードする遺伝子)に加えて、CXCL13、GZMBとCCL5を高発現していることを発見しました。
CD4+T細胞はCD8+T細胞と同様にがん組織内に浸潤しています。とくに体細胞遺伝子変異量の高い子宮体がん組織では顕著に観察されます。しかし、CD8+T細胞とは異なり、CD4+T細胞は複数の細胞サブセットに分化可能であり、がん細胞増殖に対して抑制性あるいは促進性にも働きます。どのような細胞サブセットがどのような標的(抗原)を認識し、どのような役割を担っているのか、はっきりとわかっていません。
<研究方法と結果>
体細胞変異量の多い子宮体がん組織を免疫ペプチドミクス解析し、HLAクラスIIに提示されたペプチド配列を網羅的に解読しました。体細胞変異由来のアミノ酸変異を有する抗原配列(ネオ抗原と呼ばれます)を同定し、このネオ抗原をDTK17と名付けました(図2)。続いて、がん組織内からDTK17に反応するCD4+T細胞を特定し、T細胞が産生するサイトカインと細胞傷害能を測定?評価しました。その結果、これらのCD4+T細胞は標的細胞を直接溶解する細胞傷害性を有することを見出しました。さらに、がん組織に浸潤するT細胞をシングルセル解析(scRNA-seqとscTCR-seq)し、1細胞レベルで遺伝子発現パターンおよびT細胞レセプター(TCR)クロノタイプを解析しました。その結果、がん組織中にはネオ抗原に反応し細胞傷害性を有するCD4+T細胞集団が一定の割合で存在すること、およびその集団は、疲弊マーカーであるPDCD1(PD-1をコードする遺伝子)に加えて、CXCL13、GZMBとCCL5を高発現していることを発見しました。
![(図2) 腫瘍浸潤T細胞解析?免疫ペプチドミクス解析?シングルセル解析による新しいCD4+T細胞サブセットの発見](/jp/news/press/h1i5090000000mz5-img/h1i5090000000n2w.jpg)
<展望>
遺伝子変異量の多い子宮体がん組織から、ネオ抗原を認識し標的を溶解する能力を持つ、新しいCD4+T細胞集団を発見しました。ヘルパーT細胞や制御性T細胞とは分化状態の異なる新しい細胞集団であり、抗腫瘍免疫において独自の役割を担っている可能性があります。CD8+T細胞のように、がん細胞を攻撃し、腫瘍退縮を導く細胞集団である可能性もあり、今後の検証が必要です。発見した遺伝子群をマーカーとして活用すれば、これらの細胞集団を多くの症例から検出でき今後の研究発展につながると期待します。
<謝辞>
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の次世代がん医療加速化研究事業(研究代表:金関貴幸、鳥越俊彦)、日本学術振興会研究助成事業(研究代表:金関貴幸)、新浪体育附属研究所免疫プロテオゲノミクス共同研究拠点の支援をうけて実施されました。
<用語解説>
*1 T細胞
T細胞は免疫細胞であるリンパ球のひとつであり、がん細胞やウイルス感染細胞を除去する中心的な役割を担う。T細胞は相手細胞表面のHLA分子に提示された抗原ペプチドをみて標的細胞を識別する。T細胞にはCD8+T細胞とCD4+T細胞が存在し、それぞれHLAクラスIおよびHLAクラスIIに提示された抗原を認識する。CD8+T細胞は基本的に標的を攻撃する細胞傷害性T細胞の役割を担うが、CD4+T細胞にはヘルパーT細胞や制御性T細胞など役割の異なる細胞集団が存在する。
*2 HLAと抗原
すべての有核細胞は細胞表面にHLAクラスIと呼ばれる皿状の分子を発現し、細胞内で生じた膨大な数のタンパク断片(9-10アミノ酸長のペプチド)を提示している。さらに特定の細胞(抗原提示細胞や一部のがん細胞)は、HLAクラスI分子に加えて、細胞表面にHLAクラスII分子を発現し長めのタンパク断片(12-20アミノ酸長のペプチド)を提示している。提示されたペプチド配列あるいはその元となるタンパク配列を抗原と呼ぶ。ペプチド-HLA複合体はT細胞による免疫監視(スクリーニング)の目印となる。
*3 ネオ抗原
がん細胞ゲノムでは多くの遺伝子に体細胞変異が生じている。変異遺伝子から変異アミノ酸配列をもつ変異タンパクが翻訳され、変異したアミノ酸を含むタンパク断片が細胞表面のHLAに提示された場合、それらの抗原ペプチドは「ネオ抗原(ネオアンチゲン)」と呼ばれる。正常細胞には体細胞変異がないことから、T細胞はネオ抗原を目印にがん細胞と正常細胞を識別していると考えられている。
*4 免疫ペプチドミクス
細胞表面に提示されたペプチドを生化学的に抽出し、マススペクトロメトリーを用いて網羅的に配列解読する新しい解析技術。がん細胞の遺伝子変異情報を解析に組み込むとネオ抗原も検出できる。
<論文発表>
公表雑誌:
Cancer Immunology Research (2025年2月3日米国東部時間)
論文名:
Identification and phenotypic characterization of neoantigen-specific cytotoxic CD4+ T cells in endometrial cancer
著者:
Minami Fusagawa1, Serina Tokita1,2, Kenji Murata1,2, Tasuku Mariya3, Mina Umemoto3, Shintaro Sugita4, Kazuhiko Matsuo5, Yoshihiko Hirohashi1, Tsuyoshi Saito3, Takayuki Kanaseki1,2 *, Toshihiko Torigoe1
1 Department of Pathology, Sapporo Medical University, Japan
2 Joint Research Center for Immunoproteogenomics, Sapporo Medical University, Japan
3 Department of Obstetrics and Gynecology, Sapporo Medical University, Japan
4 Department of Surgical Pathology, Sapporo Medical University, Japan
5 Sapporo Clinical Laboratory, Sapporo, Japan
* Corresponding author
遺伝子変異量の多い子宮体がん組織から、ネオ抗原を認識し標的を溶解する能力を持つ、新しいCD4+T細胞集団を発見しました。ヘルパーT細胞や制御性T細胞とは分化状態の異なる新しい細胞集団であり、抗腫瘍免疫において独自の役割を担っている可能性があります。CD8+T細胞のように、がん細胞を攻撃し、腫瘍退縮を導く細胞集団である可能性もあり、今後の検証が必要です。発見した遺伝子群をマーカーとして活用すれば、これらの細胞集団を多くの症例から検出でき今後の研究発展につながると期待します。
<謝辞>
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の次世代がん医療加速化研究事業(研究代表:金関貴幸、鳥越俊彦)、日本学術振興会研究助成事業(研究代表:金関貴幸)、新浪体育附属研究所免疫プロテオゲノミクス共同研究拠点の支援をうけて実施されました。
<用語解説>
*1 T細胞
T細胞は免疫細胞であるリンパ球のひとつであり、がん細胞やウイルス感染細胞を除去する中心的な役割を担う。T細胞は相手細胞表面のHLA分子に提示された抗原ペプチドをみて標的細胞を識別する。T細胞にはCD8+T細胞とCD4+T細胞が存在し、それぞれHLAクラスIおよびHLAクラスIIに提示された抗原を認識する。CD8+T細胞は基本的に標的を攻撃する細胞傷害性T細胞の役割を担うが、CD4+T細胞にはヘルパーT細胞や制御性T細胞など役割の異なる細胞集団が存在する。
*2 HLAと抗原
すべての有核細胞は細胞表面にHLAクラスIと呼ばれる皿状の分子を発現し、細胞内で生じた膨大な数のタンパク断片(9-10アミノ酸長のペプチド)を提示している。さらに特定の細胞(抗原提示細胞や一部のがん細胞)は、HLAクラスI分子に加えて、細胞表面にHLAクラスII分子を発現し長めのタンパク断片(12-20アミノ酸長のペプチド)を提示している。提示されたペプチド配列あるいはその元となるタンパク配列を抗原と呼ぶ。ペプチド-HLA複合体はT細胞による免疫監視(スクリーニング)の目印となる。
*3 ネオ抗原
がん細胞ゲノムでは多くの遺伝子に体細胞変異が生じている。変異遺伝子から変異アミノ酸配列をもつ変異タンパクが翻訳され、変異したアミノ酸を含むタンパク断片が細胞表面のHLAに提示された場合、それらの抗原ペプチドは「ネオ抗原(ネオアンチゲン)」と呼ばれる。正常細胞には体細胞変異がないことから、T細胞はネオ抗原を目印にがん細胞と正常細胞を識別していると考えられている。
*4 免疫ペプチドミクス
細胞表面に提示されたペプチドを生化学的に抽出し、マススペクトロメトリーを用いて網羅的に配列解読する新しい解析技術。がん細胞の遺伝子変異情報を解析に組み込むとネオ抗原も検出できる。
<論文発表>
公表雑誌:
Cancer Immunology Research (2025年2月3日米国東部時間)
論文名:
Identification and phenotypic characterization of neoantigen-specific cytotoxic CD4+ T cells in endometrial cancer
著者:
Minami Fusagawa1, Serina Tokita1,2, Kenji Murata1,2, Tasuku Mariya3, Mina Umemoto3, Shintaro Sugita4, Kazuhiko Matsuo5, Yoshihiko Hirohashi1, Tsuyoshi Saito3, Takayuki Kanaseki1,2 *, Toshihiko Torigoe1
1 Department of Pathology, Sapporo Medical University, Japan
2 Joint Research Center for Immunoproteogenomics, Sapporo Medical University, Japan
3 Department of Obstetrics and Gynecology, Sapporo Medical University, Japan
4 Department of Surgical Pathology, Sapporo Medical University, Japan
5 Sapporo Clinical Laboratory, Sapporo, Japan
* Corresponding author
研究者プロフィール
![医学部 病理学第一講座 金関貴幸 講師](/jp/news/press/h1i5090000000mz5-img/h1i5090000000n5a.jpg)
<研究領域> 新オミクス領域である免疫ペプチドミクスを駆使したがん抗原およびT細胞研究を実施。個別化がんワクチンの実用化を目指す。
![新浪体育医学部 病理学第一講座 房川美渚 新浪体育生](/jp/news/press/h1i5090000000mz5-img/h1i5090000000n55.jpg)
<研究領域> 学部時代からMD/PhDコースで免疫学を学び研究技術を磨いた。新浪体育を経て積み上げた成果が実った。