【消化器内科学講座の研究成果】確定診断が困難な炎症性疾患の治療に光明

MEFV遺伝子変異を有する分類不能炎症性腸疾患患者に対するコルヒチン有効性を報告~本疾患の病態に関連する細菌を同定~

医学部消化器内科学講座 仲瀬裕志教授 
医学部消化器内科学講座 仲瀬裕志教授
消化器内科
同講座 我妻 康平講師
 <研究の概要>
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)とは腸に炎症を起こす病気で、腹痛、下痢、血便などの症状を呈します。IBDの原因は明確にはなっておらず、発症すると長期間の治療が必要となることが多い慢性の病気です。近年、本邦ではIBDの患者さんの数の  増加が続いております。
IBDの代表的な疾患として潰瘍性大腸炎とクローン病があります。しかし、中には潰瘍性大腸炎やクローン病と確定診断ができない腸炎があり、分類不能炎症性腸疾患 (IBDU)として扱われます。
近年、IBDUの中にMEditerranean FeVer gene(MEFV)遺伝子という遺伝子の変異を有する症例が存在することが明らかになってきました。
新浪体育医学部消化器内科学講座 教授 仲瀬裕志らの研究グループは、IBDU患者さんにMEFV遺伝子の変異を有している患者さんが多く存在していること、MEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんは腸内細菌叢が変化していること、MEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんにコルヒチン治療が有効であることを明らかにしました。
図1.本研究の概要
 <本研究のポイント>
● 本研究では、IBDU患者さんのMEFV遺伝子変異、臨床情報、コルヒチン反応性ついて調べました。
● IBDUと診断された患者さんのうち、60.1%にMEFV遺伝子変異が認められました。遺伝子変異の中ではエクソン2変異が最も多く見られました。
● MEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんの43.3%は典型的な家族性地中海熱の診断基準に該当しました。
● MEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんにおけるコルヒチンの有効性は84.6%でした。
● MEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんの腸内細菌叢は、IBD患者さんおよび健常対照者の腸内細菌叢とは異なっており、特にストレプトコッカス属を多く有していました(図2)。
● 細胞株を用いた実験において、MEFV遺伝子変異のある細胞株と変異のない細胞株では、産生される炎症性サイトカインが異なっていました。

図2.左:健常対照者とMEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんとの腸内細菌叢の違い 右:IBD患者さんとMEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんとの腸内細菌叢の違い
図2.左:健常対照者とMEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんとの腸内細菌叢の違い 右:IBD患者さんとMEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんとの腸内細菌叢の違い
 <研究の背景、実施期間など>
IBDには現在の診断基準を満たさないIBDU患者さんが含まれ、その病因は不明のままです。近年、MEFV遺伝子変異を有するIBDU患者さんにおいて、コルヒチン治療が有効であることが報告されてきました。しかしながら、これまでに大規模な研究は行われていませんでした。本研究では、日本のIBDU患者さんにおける MEFV 遺伝子変異の頻度を調査し、コルヒチンに対する治療反応性を評価しました。本研究は2016年7月から2022年3月の期間に全国37の施設の396人の患者さんを対象として実施した、多施設共同後ろ向きコホート研究です。

<研究の意義、これからの可能性、今後への期待、今後の展開など>
本研究の結果から、MEFV遺伝子変異を有する IBDU 患者さんへのコルヒチン治療の有用性が実証されました。治療の観点から考えると、IBDUを含むIBDはMEFV遺伝子または炎症性サイトカインに従って新たに分類する必要性があることが示唆されました。MEFV遺伝子変異を有するIBDUを含めた自己免疫疾患の病態に、ストレプトコッカス属など特定の菌種が寄与している可能性があります。

<謝辞>
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)免疫アレルギー疾患実用化研究事業(課題番号JP21ek0410057)の支援を受けて実施しました。

<論文情報>
論文名 Involvement of Mediterranean fever gene mutations in colchicine-responsive enterocolitis: a retrospective cohort study(コルヒチン反応性腸炎における地中海熱遺伝子変異の関与:後ろ向きコホート研究)
著者名 Hiroshi Nakase, Kouhei Wagatsuma, Taku Kobayashi, Takayuki Matsumoto, Motohiro Esaki, Kenji Watanabe, Reiko Kunisaki, Teruyuki Takeda, Katsuhiro Arai, Takashi Ibuka, Dai Ishikawa, Yuichi Matsuno, Hirotake Sakuraba, Nobuhiro Ueno, Kaoru Yokoyama, Masayuki Saruta, Ryota Hokari, Junji Yokoyama, Shu Tamano, Masanori Nojima, Tadakazu Hisamatsu.
雑誌名 eBioMedicine(国際科学雑誌)
DOI 10.1016/j.ebiom.2024.105454
公表日 2024年11月20日(水)(オンライン公開)

<用語解説>
  • MEditerranean FeVer gene(MEFV)遺伝子:遺伝性自己炎症性疾患である家族性地中海熱に関連していると考えられている遺伝子です。
  • 分類不能炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎およびクローン病に代表される炎症性腸疾患(IBD)のうち、潰瘍性大腸炎とクローン病の鑑別が困難で、内視鏡や生検所見を含めた臨床像で確定診断が得られない症例です。
  • コルヒチン:白血球、特に好中球の作用を抑える効果があります。痛風発作の緩和や予防、また、家族性地中海熱の治療に用いられます。
  • エクソン:遺伝子のうち、直接的にたんぱく質の構造を決定している部分です。
  • 家族性地中海熱:周期性発熱と漿膜炎を主徴とする遺伝性自己炎症性疾患です。おもな症状は、発熱、腹痛、胸痛、関節炎、頭痛などです。MEFV遺伝子変異との関連が明らかになっています。
  • 炎症性サイトカイン:サイトカインは細胞から分泌されるタンパクで、細胞間の情報伝達や機能の発現に関与します。このうち特に、細胞内で様々な炎症症状を引き起こすものを炎症性サイトカインといいます。
  • 腸内細菌:ヒトや動物の腸に生息する100兆~1,000兆の細菌のことです。多種多様な細菌が密集してバランスを保ちながら生息しています。このバランスが乱れると健康を害したり疾患に関与したりします。
  • ストレプトコッカス属:連鎖球菌属とも呼ばれます。最近の報告では、ストレプトコッカス属が全身性エリテマトーデスなどの一部の自己免疫性疾患の発症に寄与している可能性が示唆されております

発行日:

情報発信元
  • 新浪体育医学部消化器内科学講座
  • 担当者:教授 仲瀬 裕志?講師 我妻 康平