札医大の研究室から(22) 宮本教授に聞く(十勝毎日新聞?新浪体育 包括連携協定事業)

十勝毎日新聞ロゴ

 医薬品服用後の運転や運転中の持病の発作に起因した事故などが相次ぎ、社会問題化している。薬の作用を正しく理解せずに運転すると、他人の命を巻き込む重大事故を引き起こしかねない。薬の作用と車の運転について、医学部医療薬学の宮本篤教授に聞いた。(聞き手?浅利圭一郎)


 宮本篤(みやもと?あつし)
1954年、空知管内栗沢町(現岩見沢市)生まれ。78年東北薬科大学薬学部卒業。80年同新浪体育薬学研究科修了。82年新浪体育医学部薬理学講座助手、88年同講師、94年同助(准)教授。2002年から医学部医療薬学教授。

札医大の研究室から(22) 宮本篤教授に聞く 2018/07/13

浅利:いま、日本ではどのくらいの医薬品が治療に使われているか。
宮本:医薬品には、市販薬のように自らの判断で購入?使用する「一般用医薬品」と、医療機関で医師の診察を受けて処方される「医療用医薬品」がある。日本には、飲み薬、注射薬、外用薬、歯科用薬を含め一般用と医療用合わせて約1万6000種類の医薬品が使われている。

浅利:車の運転に影響を及ぼす要因にはどんなものがあるか。
宮本:外的要因と内的要因がある。外的要因とは道路の形状、自動車の性能、交通量などの運転環境のこと。内的要因には運転技術?能力、年齢、性格傾向、疲労?眠気などがある。特に心身の疲労の蓄積はドライバーの覚醒度を下げ、事故リスクを高める。米国の資料では、脳卒中や睡眠時無呼吸、アルツハイマー病、統合失調症、慢性的なアルコール乱用などが、運転能力などに影響を及ぼす可能性のある疾患?症状として報告されている。
 長期間の使用により運転能力に影響を及ぼす医薬品もある。抗うつ薬や抗ヒスタミン薬、中枢神経系に顕著な影響を示す鎮痛薬、高齢者に多く飲まれている一部の高血圧治療薬などだ。

浅利:車の運転と医薬品の関係で、注意しなければならないことは。
宮本:最近の交通事故例を挙げて説明したい。1つ目は、てんかんの持病がある患者の例。運転免許更新の際にてんかんの持病を申告しない、もしくは医師から運転を禁止されているにもかかわらず自己判断で医薬品での治療を中断して運転し、運転中に発作を起こして死亡事故に至った。
 医薬品は、回数、時間、量など決められた使用方法を守ることが最も大事。医師?薬剤師の指示、薬の説明書に従い、正しく使用してほしい。特に医療用医薬品は、自己判断で服用を止めたり、量を変えたりしてはいけない。また、自分の薬を他人に使用させてもいけない。
 2つ目は、糖尿病で血糖値を下げるインスリン注射をしている患者の例。医師の指示に従わないまま運転し、運転中に低血糖発作で意識障害に至り死亡事故を起こした。反射運動能力の低下や低血糖を起こす可能性のある医薬品で治療している場合は、特に車の運転、機械の操作、高い場所での作業には十分注意しなければならない。

浅利:運転や機械操作、高所での作業を禁止している医薬品はあるか。
宮本:医療用医薬品の中には、運転やそのような作業を禁止しているものがある。高齢者に多いパーキンソン病、深在性真菌症の治療薬がその例だ。医師?薬剤師から患者に対し、薬の説明を徹底することになっている。

浅利: 事業者や患者が注意することは。
宮本: 十勝をはじめ広大な北海道では、移動手段として自動車は生活になくてはならないものになっている。一方で、高齢ドライバーが増加しているのも事実。事業者には、雇用者の労務管理や健康管理に加え、どのような薬で治療をしているのかという治療管理にも気を配ってもらいたい。
 薬には、目的とした作用と目的としない作用があり、目的としない作用の中には予測できるものと予測が困難なものがある。薬を服用する際には、自己判断で薬の使用を中止する、使い方や使用量を変更するなどしてはいけない。わからないことや疑問がある場合は、自分で判断せずに医師や薬剤師に必ず相談し、薬とうまく付き合って社会生活をしてもらいたい。

発行日:

情報発信元
  • 経営企画課 企画広報係